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ヘーゲルの「弁証法」で考える日本の退化

齋藤孝さんの新刊『使う哲学』より、日常で使える哲学の思考法を伝授します。

ヘーゲルの「弁証法」で歴史を考える

 ヘーゲルの思考法では、やはり「弁証法」は欠かせません。

 弁証法という概念は古代ギリシャ時代からありましたが、ヘーゲルが考えた弁証法は古代ギリシャのそれとは異なります。ヘーゲルのいう弁証法は、何かの問題を解決する際に、対立する二つの事柄を切り捨てることなく、より良い解決法を見つけ出していく思考法です。

 「正」と「反」という二つの対立する問題があった場合、正も反も切り捨てずに、統合して、「合」という解決法を見つけ出します。「正→反→合」、ドイツ語でいえば、「テーゼ→アンチテーゼ→ジンテーゼ」という流れです。こうして、より良い解決法、より望ましい状態になることを「止揚」、ドイツ語では「アウフヘーベン」と言います。

 弁証法を行なうと、人は一つ高い次元の知識が得られるなど、1段、上の段階に進むことができます。2回行えば2段、3回行なえば3段、上の段階に進めます。こうして弁証法を繰り返すことで、人間の思考は絶え間なく進化していけるとヘーゲルは考えました。

 さらにこのことは、一人の人間に関してだけでなく、人間の歴史や世の中全体にも当てはまります。ヘーゲルによると、人間の知識や認識も、歴史や社会のありようも、弁証法を行なうことで、理想のあり方に近づいていくことになります。

 また、ヘーゲルは著作『精神現象学』の中で、「人間の本質は自己意識の自由にある」「人間は誰しも自由でありたいという本性を持っている」といったことを述べています。そしてヘーゲルは、弁証法によって、自由を獲得したり実現したりする過程が歴史になると言います。

 奴隷制の廃止、教会からの自由、絶対王政の打倒というヨーロッパに歴史は、多くの人が自由を獲得してきたものでもあります。その際には、矛盾点や問題点を少しずつ統合しながら解決し、進化してきたということです。

 日本の歴史でも、たとえば江戸時代には、殿様が切腹を命じると、家臣は弁解もできずに切腹しなくてはいけないようなこともありました。江戸時代には優れた点がたくさんありますが、今の私たちからすると、理不尽に思えることも起こったでしょう。

 現代でも悲惨な出来事は起きているし、今のように民主主義国家が広がる手前には、ファシズムが世界を覆って、世界的な大戦争を巻き起こしたこともあります。

 とはいえ、総じていえば、ヘーゲルのいうように、歴史は矛盾点や問題点を統合しながら、多くの人が自由を獲得してきているように思えます。

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齋藤 孝

さいとう たかし

明治大学文学部教授。



1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。



250万部を超えるヒットとなった『声に出して読みたい日本語』シリーズ(草思社)のほか、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『大人の精神力』、『10歳までに身につけたい「座る力」』(いずれも小社刊)など著書多数。


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